GlassesForestトップ > WORKS −作品− > SCENARIO −脚本− > 出ていけ
1
・ 公園。ダンボールハウスがたくさんある
・ 「立ち退き反対!」「我々は出て行かないぞ!」などと書かれたダンボールが散乱
・スーツで強面の中年男性が、ダンボールハウスを睨みながら歩いている
・一つのダンボールハウスの前で足を止め、蹴飛ばす
男 「おい、出て来い、コラ!」
ドラキュラ「あ、はい、なんでしょう」
中から、マントに帽子のドラキュラが出てくる
男 「なんでしょうじゃねえよ、お前、ここが誰の土地か分かってんのか?」
ドラキュラ「え、ここって自由に住んで良いとこじゃ無かったんですか」
男 「ああ、違うね。お前らみたいなのがいるから迷惑してんだよ。分かったら早く出て行け、ほら」
ドラキュラ「はぁ・・・それはすみません。なにせこの国に来たばかりなもので」
男 「この国? そういえばお前、変な格好してるな。外人なのか」
ドラキュラ「ええ、ルーマニアから来ました」
男 「で、なんで乞食なんかやってるんだ」
ドラキュラ「それが、最近の金融危機で住んでた城を手放しちゃいましてね」
男 「城だと?」
ドラキュラ「ええ、トランシルヴァニア城って言います」
男 「ちょっとまて。どっかで聞いたことあるな・・・確か」
ドラキュラ「ええ、ドラキュラの城です」
男 「舐めてたら、ぬっ殺すぞ?」
ドラキュラ、首を振る
ドラキュラ「ちょ、ちょっと。ホントなんですよ」
男 「じゃあ、お前はドラキュラだってのか」
ドラキュラ「そうなんです。ほら、帽子にマント。お望みなら血も吸ってあげましょうか、ガオー」
ドラキュラ、口を開けて両手で構える
男 「おまえ、バカにしてるだろ」
ドラキュラ「いやいや、だから本当なんですよ。住むとこ失って、みんなでこっちに来たばかりなんです」
男 「みんな? まだいるのか」
ドラキュラ「ええ。おーい」
近くの草むらやダンボールハウスから人影が現れる
狼男 「こんにちは」
ミイラ男 「・・・」
男、じっと見る
男 「こいつは普通の男じゃないか」
ドラキュラ「いえ、彼は狼男ですよ」
狼男 「今日は満月じゃないですからね」
男 「それはただのホームレスだな・・・このミノムシみたいなのはなんだ」
ドラキュラ「しっ。本人も気にしてるんですから。彼はミイラ男ですよ」
ミイラ男 「・・・」
ドラキュラ「こっちに来る途中に包帯がほどけてしまったんです。仕方が無いのでダンボールをちぎって体にくっ付けてるんです」
狼男 「前衛的って言うと喜びますよ」
男、頭に手を当てる
男 「もういい。よく分からんがよく分かった。つまりお前らは妖怪難民か」
ドラキュラ「そんなとこです。人間も大変かもしれないですが、妖怪も大変なんです」
狼男 「古い建物は取り壊されて、住むとこ住むとこ出て行けって言われて」
ドラキュラ「ヨーロッパって寒いんだよね」
狼男 「ねーっ」
男 「じゃあ、こいつは」
ミイラ男を指差す
ドラキュラ「ああ、彼はウチに居候してたんで、一緒に来たんです」
狼男 「色んな国に行ったんですが、どこも厳しくて。やっと日本に来たら、なんだかダンボールに住んでいる人がいっぱいいたので、ああ、良いのかなぁって」
男 「いや、良くないな」
ドラキュラ「そう言われましても、我々にはここしかないんですよ」
男 「ふむ・・・」
男、あごに手をあて、少し考える
少し間。 男、ふと顔を上げる
男 「おい」
ドラキュラ「はい!」
男 「おまえら妖怪の本分はなんだ」
狼男 「平和に・・・」
ドラキュラ「ひっそりと・・・」
男 「人間を怖がらせることだろ!」
ドラキュラ「ああ!」
狼男 「そういえば!」
二人、すぐに暗い顔をする
ドラキュラ「まぁ、そうなのですが、我々としても先立つものがありませんと」
狼男 「やはり、暖かい寝床と暖かい食事。より良い環境の確保が、より良い仕事に繋がるのです」
男 「おれが用意してやる」
ドラキュラ「ほんとですか?」
男 「ああ、ダンボールじゃなくて、マンションに3食用意してやる」
狼男 「ああ、素晴らしい」
ドラキュラ「何か裏があるんじゃないでしょうね」
男 「何を言う。私は純粋に君達を応援したいだけだよ」
男、わざとらしく
男 「君達みたいな哀れな妖怪を応援する人間がいても良いだろう?」
二人、感動
ドラキュラ「こ、こんなに優しくして貰ったのは始めてです!」
狼男 「お、俺、頑張るもんね!」
ミイラ男 「・・・」
男 「いいんだいいんだ。ところで、まずは腕試しに、この公園に住んでいる連中を怖がらせてみないか」
ドラキュラ「ええ、まかせてください」
男 「怖がって、連中が全員ここから出て行けば終了だ。そしたら次の場所に行って別の連中を怖がらせよう。出来るかい」
狼男 「ここにいる奴全員、出て行かせて見せますよ!」
ドラキュラ「今度は俺たちが追い出す番だ。とことんやるぜ」
男 「住む場所などはすぐに用意するから。じゃあ、よろしく頼むよ」
ニヤニヤしながら去っていく男。見送る二人。転がっているミイラ
暗転
2
・ 男と、別の若い男性が公園に立っている
・ 公園のダンボールハウスなどは一つも残っていない
若い男「いやあ、驚きましたね。こんなにすぐに片がつくなんて」
男 「まさに妖怪さまさまだな」
若い男「ボスも大喜びですよ、これで大もうけが出来るって」
男 「俺もすっきりしたよ。この土地にへばりついてた奴らを一掃出来たんだからな」
若い男「これからは妖怪の連中を使って合法的に地上げが出来ますね」
男 「うはははは」
若い男「あははは」
笑い声がフェードアウトしながらED,クレジット
( written by めがね )